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消石灰を利用した消毒時に留意すべき新しい知見

 消石灰(水酸化カルシウム)は昔から利用されていてコストパフォーマンスに優れた消毒剤ですが、その除菌力を証明することは困難でした。消石灰の実験の困難性(つまり、病原微生物に適用した後の、アルカリ分の停止が困難であったことから正しい結果が得られ難くかった)を横関博士と克服し、農場でよく見かける消石灰粉の舎内通路への散布や踏込消毒槽利用の効果など、博士の実験結果と私の実験結果から次のような新知見を得ました。

 分かったことは、消石灰粉末を通路に撒いただけでは、表面の病原微生物を殺せませんし、また、石灰の上に後から飛んできた病原菌にも効果が無いことが確かめられました。  しかし、大地の湿気とか夜間の湿り気で水分を吸った時点で効果が出ます。そして、日中に乾燥すれば効果がなくなります。 十分な効果を出すためには、消石灰粉散布後、水を撒けばよいと言う事になります。  濡れている間はpH12.5前後の強アルカリになるので除菌効果が持続しますが、乾けば無効になります。

 10%程度の溶液を散布することも効果的ですが、その濃度の溶液を散布するには、機械の種類や不溶解成分が少ないドロマイト石灰の利用など工夫が必要です。

 10%溶液をコンクリ面に塗った場合、約24時間程度迄は複数回でも濡れればpHが高くなり繰り返し効果が復活します。 この繰り返しの持続性が消石灰の特徴です。

 他の消毒剤は、一度乾けば除菌効果はそれで終わることが証明されています(畜産の研究68-1 2014)。

 その後、消石灰溶液の噴霧面は空気中の炭酸ガスと結合して炭酸カルシウムに徐々に変化してpHは12→11→10 と徐々に低下します。pH11位まで低下するには10%石灰乳では約1日、石灰粉末に水を撒いた場合は5日以上復活すると思います。pH12以下に低下すると除菌効果は余り期待出来なくなります。 アルカリ除菌にはpH12以上は必要です。

 踏込消毒槽でも消石灰粉だけ入れても無効だと証明されました。10%の飽和溶液にすればpH12.5以上となり、効果がありますが、踏込消毒槽には短時間しか長靴を漬けて居ないので、消毒薬に比較的弱いサルモネラ菌(S. Typhimurium)には効果があっても、スス病のブドウ球菌(ハイカス)S.hyicusには30秒でも効果が無いことが確かめられたので(畜産の研究誌5月号)、短時間での抗菌スペクトルが狭く、踏込消毒槽には消石灰は向いていないということが言えます。  消石灰に逆性石鹸液(クリアキルやアストップ)を入れても入れなくてもハイカスには同じ結果でしたが、逆性石鹸液を添加するとpHがもう少し上がり、スペクトルも広がる様です。


 ところで、消石灰(水酸化カルシウム)を水に0.2%溶かして利用する方法があります。

その最大の利点は散布面が白くなりにくいことです。そこで私の実験で分かったなことですが、消石灰0.2%ではpHは12以上になり消毒効果がありますが、乾いた後、再度濡らしてもpHの復活はありませんでした。乾燥後に再度濡らした時のpHは7前後でした。しかも、0.2%溶液では散布後約30分するとpHが12~11.5位に下がり、60分後にはpH7迄下がるので、散布した溶液が乾かなくても消毒効果は15分から20分程度が限界だと分かりました。

 よって、消石灰溶液に、より広範なスペクトルの消毒効果やpHの復活を期待するならやはり10%程度の溶液にする必要があるということです。10%溶液でなくても1%でもよい報告がありますが、散布面はそこそこ白くなります。

0.2%溶液はすりガラス状の半透明の溶液ですから、噴霧し、乾くと僅かに粉状のものは残りますが白さは殆どありませんから車両への散布など白くなってはイヤなものにも適用出来る限界だと思いますが、やはり消毒効果は限定的と言えます(近々論文発表されます)。

 消毒薬の指標の石炭酸係数は10分間適用後の効果で評価することになっていますが、畜舎では夏期30分、冬期3時間程度で乾燥がかなり進みますので、実験では長くてもこの程度の時間内に除菌効果がなければ、仮にin vitroの実験で3時間以上消毒薬に”漬け置いて”効果があったと言っても現実的ではありません。

一方、ウイルス実験で消石灰溶液と糞便添加が力価減少に有効か否かを証明することは簡単ではありません。

 問題となっているPEDウイルスはエンベロープがある上消毒薬全般に弱いので、細菌実験で有機物に強いことが証明されている薬剤ならPEDウイルスに対しても有効性が高いと言えます。

 コストですが、消石灰の0.2%溶液は約0.06円/1L です(20kg送料込税別600円の場合)。

ビルコンS 500倍(3.7円弱)や逆性石鹸液500倍(0.8円強)などと同様な散布で白くならない使い方を目指すならば、0.2%が限界でコストはかなり安く済みますが、消毒効果は上記のとおりです。

天然水酸化カルシウム製剤の0.2%の単価は約1円/1L と水酸化カルシウム製剤である消石灰に比べて高価ですが利点はあるのか、橫関博士が興味をもっていますので近日中に検証されるでしょう。

 なお、廃棄物の処理及び清掃に関する法律で、pH2以下の強酸やpH12.5以上の強アルカリは特別管理廃棄物として処理するように定められているとか、また、水質汚濁防止法の排水基準の許容限度は海域以外でpH5.8~8.6という規制に関しては、低濃度溶液はその懸念がありません。

道路などへの消石灰散布は大量を常時しなければ問題となりませんが、消毒薬は分解性が優れたものや環境負荷を考慮した使い方をする必要があります。 

 消毒薬の利用に際しては、場面々々、適材適所でコストパフォーマンスに優れたもの、人への危害が少ないもの、効果の確かなものを適切な濃度で利用し、使い分けることが重要です。

参考資料;

橫関正直 畜産の研究 68-6 2014, 69-2 2015, 69-5 2015

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